張学良西安事件6-張学良の処分

張学良西安事件6-張学良の処分

西安事件(西安事変)を起こした張学良のその後ですが、昭和12年2月発行の「歴史写真」の巻末にある「世界日誌」にて、続報が掲載されています。

昭和12年2月(1937年2月)発行「歴史写真」から
昭和11年12月(1936年11月)-世界日誌(12月1日~1月4日)

記事拡大 -1月4日 張学良の特赦

12月31日 :
南京軍事員会は李烈鈞氏を裁判長として特別軍法会議を組織し、本日張学良氏に対し、十ケ年の有期徒刑並びに二十五ケ年の公権白剥奪に慮する旨発表したり。

張学良は、蒋介石を襲撃し拉致監禁しました。蒋介石は張学良と一緒に西安へ出向く途中、温泉療養地に立寄り、そこで拉致被害に遭っています。死傷者も出るほどだったようです。歴史写真によると、12月12日に拉致監禁され、その二日後の14日には、張学良は蒋介石の顧問であったドナルド氏と西安で会見をしています。その後10日程で、蒋介石は解放され、12月26日には、蒋介石は南京へ戻り、事件は大事に至らず収束しました。

蒋介石であれば、これだけの事件を起こせば、暗殺しなかったとしても、張学良を「処刑する」事態だといえます。しかし、張学良の政府内での影響は非常に大きく、張学良がいなければ、蒋介石軍は東北軍や山西軍を支配下には置けなかったといえます。裁判では「極刑」は免れたものの、10年の徒刑、及び、25年の公権剥奪に処されました。徒刑とは、受刑者を監獄に拘束し、強制労働させる刑です。公権も剥奪されれば、政治の表舞台からは完全消滅です。あれだけの軍事クーデターを首謀して、処刑されなかっただけ幸運だったといえる処分でした。

一方、翌年1月には、あっさり特赦案が出されています。それも蒋介石本人からです。

1月4日 :
過般、有期徒刑10年の判決を受けたる西安兵変の首謀張学良氏の特赦案を審議する国民政府委員会は、本日南京に於て開催せられ、「張学良、今次の背叛は前後の行動に諒とすべき点あり」という満場の意見一致し、蒋介石氏提案の特赦案を意義なく可決したり

注)背叛(背反):裏切り、反逆 / 諒とすべき:もっともだとして承知する、やむを得ない / 特赦:有罪となった犯罪者の刑を免除する制度

 

満場一致で特赦案が可決した理由

張学良の西安事件(西安事変)は、蒋介石に対する反逆行為であり、軍事クーデターであったにも関わらず、拉致監禁された蒋介石が、自ら特赦を提案し、これが満場一致で可決しているのです。

蒋介石政府内では、張学良が実質的に軍事統制権を把握していたことから、迂闊に処罰すれば、張学良派の軍閥の離反が想定されたこと、「容共政策の実施」を開放要求項目としたことで、蒋介石政府と中国共産党の間で「停戦」が実現し、財政赤字の政府を救い、更には、「対日即時宣戦」により中国共産党と「共通利害」による「協力体制」の目途が付いたといえます。

蒋介石からすれば、中国共産党が味方になるのであれば、歓迎すべき事態であったでしょう。

西安事件は昭和12年(1936年)12月です。

1929年10月からの世界恐慌は1933年までで終わりましたが、1936年当時は、アメリカでは依然として大量な失業者を抱え、米国ルーズベルト大統領が、巨額の失業対策や大規模公共事業の投資などを行っていました。イギリスも、アメリカの不景気を受け、国内の財務状況は決して余裕がある状況では無くなっていたといえます。

蒋介石の軍事費用は、その殆どがイギリスからの対外軍事借款でした。ヨーロッパやバルカン方面でのイギリスとソビエト(ロシア)との対立構図から、中国側でも、蒋介石は中国共産党の台頭を阻む必要があり、長年に渡り「軍事紛争」が続いていました。

西安事件の頃は、イギリスは中国の利権争いよりも、隣のチベット進出へ重点を入れるようになっており、蒋介石に対しては、以前の様な「潤沢な資金提供」は出来なくなっていたといえます。そのため、蒋介石としても、中国共産党とは「停戦」に至りたかったのが本音でしょう。ここで、「対日即時宣戦」=「反日」で利害一致出来れば、蒋介石が同意しない訳は有りません。

張学良は、ドナルド氏との会談で、何やら余裕のある表情を見せていますが、自分が処刑されないことを初めから知っていたのでしょう。

張学良は、無能というイメージが強いですが、実際には、やはり非常な軍師だったと思います。

いつか、日本と中国の関係がもっと改善し、過去の戦争について、「歴史」という「学問」として語り合えるような時代が来たら、現在も眠っている資料の検証や新事実も加え、後世に語り継ぐべき「戦国乱世の時代」の歴史として、「新近代三国志」が生れるかも知れません。

張学良については、歴史認識は改められるべきと思います。

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